企業インタビュー
東京海上ホールディングス株式会社
145年の歴史を紡ぐ東京海上グループの使命感と人材力 - 内部監査の進化と挑戦
東京海上ホールディングス株式会社(東証プライム上場)
常務執行役員 グループ内部監査総括 滝澤 俊平様
国内においては損害保険のリーディングカンパニーであると同時に生命保険事業や関連事業を展開し、海外でも多くのグループ会社が事業を展開する東京海上グループ。その持株会社である東京海上ホールディングスは、グループ全体の経営戦略・ガバナンス・内部監査において重要な役割を果たしています。今回はグループ内部監査総括である滝澤様に内部監査の高度化におけるポイントや具体的な取り組みについて、詳しく伺いました。
リーディングカンパニーとしての強みと成長の秘訣
―まずは、改めて東京海上グループについて教えてください 。
滝澤様 私どもは1879年に東京海上保険会社として創業し、今年で145年になります。当時は、海上輸送が日本の経済発展において非常に重要な役割を果たしており、そのリスクに対する補償の仕組みの整備が急務であったことを背景に、渋沢栄一氏が資金を集め、会社を設立しました。
私たちの存在意義は、創業時からの変わらぬパーパス、お客様や社会の“いざ”をお守りすることに尽きると思っています。社会のインフラとして、時代とともに変化する様々なリスクへの補償やそれらを通じた社会課題の解決に貢献することで、持続的・長期的に成長してきました。
近年では、自然災害や火災、事故など伝統的な保険領域に加え、資産形成、ヘルスケア、防災、サイバーセキュリティ、GXなど、環境の変容によって生じる様々な課題やリスクも同様に“社会的課題”と認識して対応しています。
これまでは、保険というビジネスを中核にしてきましたが、保険で“いざ”を支えるだけではなく、これからは、保険金支払の事前や事後、さらにはお客様のウェルビーイングに貢献するようなソリューションを提供したいと考えています。
―まさに御社の歴史は日本の歴史そのものだと思うのですが、100年以上にわたり日本を支え続ける東京海上グループの強みを教えてください。
滝澤様 会社設立の経緯もありますが、私どもグループはやはり保険という事業に対する意識が非常に強いです。私たちは保険という社会インフラを通じて社会に貢献する使命を持っています。そして、この使命に共感して優れた人材が常に東京海上グループに集まり続けていること、それが私たちの強みだと思います。
この長年にわたり蓄積された知識・経験と人材を背景とした組織カルチャーが私どものビジネスを遂行するうえでの大きな財産となっていると思います。
専門性と柔軟性を兼ね備えた内部監査体制を構築
―長年にわたり内部監査の高度化に継続して取り組まれていますが、その取り組みについて教えていただけますか?
滝澤様 そうですね。内部監査の重要性はどの会社でも大きいと思いますが、特に金融機関ではその役割・責任の大きさから高い水準の経営管理・内部管理が求められます。また、保険という商品は事前にお金をいただき、何かあれば速やかにお支払いするという、一般的な商品とは逆の流れとなることから、一層の厳密な管理が求められます。そのため、これらの経営管理・内部管理の有効性を検証する内部監査の役割は非常に重要なものとなります。
当社では、長期にわたり内部監査の高度化に向けて様々な取り組みを行っています。直近では、グループ各社の内部監査機能と持株会社によるグループ統括機能に対する統一的・包括的な外部評価を受け、経営に資する監査の一層の強化が必要であるという課題認識に至り、テーマ監査や複数のグループ会社による合同監査などに取り組んでいます。また、変化の激しい経営環境に対応するために、期中にも柔軟に監査計画の変更を行うことができる機動的な内部監査の体制を整えています。
当社グループの利益の半分以上は海外事業からのものですので、海外グループ会社の統制・連携も重要な課題です。そこで、私どものグループでは、IHIA(International Head of Internal Audit)というポジションを設け、海外の内部監査や海外事業に精通した人材を配置し、グローバルな視点からの監査体制を整備しています。
さらに、内部監査人材の専門性の強化も欠かせません。特にサイバーセキュリティやIT、財務・資産運用といった分野での専門人材を社内外から確保し、キャリアパスを整備することで、グループ全体を見渡す視点を持つ人材の確保・育成に取り組んでいます。
加えて、テクノロジーの活用も重要であり、これらを活用して内部監査の高度化と効率化を図っていきたいと考えています。
デジタルの活用で広がる内部監査の領域
―ありがとうございます。今、お話にありましたテクノロジーの活用について、特に内部監査の分野での取り組みを詳しく教えていただけますか?
滝澤様 デジタルの活用は、従来の方法では手が届かなかった部分に手を届かせるために非常に有効です。その中でも、GRCツールを使った監査プロセスの管理は重要だと考えています。証拠書類のストアや、持株会社としてグループ各社の監査状況を適宜モニターできる仕組みを導入して活用を進めているところです。
また、不正検知においても、デジタル技術やデータ分析を活用することで、今まで検証できてきた部分だけでなく、より広い範囲に対する検証、例えば全量調査などが可能になり、隠れていた問題を見つけ出すことができます。現在、AIの活用にも取り組んでおり、どの監査プロセスにAIを組み込むべきかを試行しつつ検討を進めています。実際にAIを使うことで、手作業で行う必要がなくなった部分もあり、そこから生まれる時間でより深度ある監査を行うことも期待できますので、これからもAIを積極的に活用していくべきだと考えています。
その一方で、データ分析やAIの導入には留意すべきポイントもあります。例えば、内部監査の実施過程では、高度な判断を伴う場面もあり、それらについては現時点では依然として人間に委ねられる部分が大きいと感じています。そのためAIと人間の判断をどう接合させるかが課題になってきます。また、AI自体は日々進化していますので、適切に活用するためには私たち自身が試行し、理解を深めていく必要がありますし、変化の早い領域ですので柔軟性も必要だと思っています。
―おっしゃる通りです。AIは人間のサポート役として非常に有効です。
滝澤様 私自身、過去にツールやプログラミングなどを用いて業務の高度化・効率化を図ってきた経験があります。テクノロジーの活用は、これまで手作業だけでは届かなかった部分にも手を広げることができ、対応可能な「面積」を広げ、また「深度」を得ることに繋がります。今後も人の力とテクノロジーの力を融合して活用に取り組んでいきたいと思います。
多様な人材を結集し、内部監査への高い期待へ応える
―先ほど“人の重要性”についても触れられましたが、内部監査の人材確保や育成についての取り組みを教えていただけますか?
滝澤様 内部監査人材に求められる資質や能力はいくつかありますが、特に重要なのはビジネスのオペレーションに対する深い理解と、インタビューや分析などの監査技術です。国内では、ビジネスやオペレーションに精通した人材が多いことから、着任時には研修やOJTを通じて、監査技術や監査人の立ち位置、独立性といったポイントを重点的にしっかりと身につけてもらっています。さらに、着任後も継続的な研修を通じて、常に最新の知識とスキルを持った人材の育成に取り組んでいます。
―具体的には、どのように人材を確保しているのでしょうか?
滝澤様 国内では、これまで社内やグループ内での人事異動が中心でしたが、近年は専門人材の中途採用にも力を入れています。ガバナンスの分野ではどの企業も人材不足に悩んでおり、優れた人材をどう確保するかが大きな課題です。私たちも東京海上グループのビジネスの未来を見据え、必要な人材を段階的に拡大して確保していく計画です。
また、海外拠点の監査部門と日本の監査部門の交流や役割分担を通じた人材育成にも取り組 んでいます。グローバルな視点を持つ人材を確保することで、グループ全体としての監査体制をさらに強化していきたいと考えています。
新たな課題への挑戦と外部目線の導入
―内部監査の強化は社会的な命題であり、終わりのない課題だと思います。今後の内部監査の強化について教えていただけますか?
滝澤様 内部監査の強化は、私たちにおいても非常に大きな課題です。内部監査の成熟度など新しい概念も広まっています。私たちもそれらを参考にしながら、グループ全体で内部統制を強化し、組織の健全な成長の基盤を作ることを目指しています。
特にテクノロジーの活用や専門人材の確保は重要なポイントであり、先ほど話した通り、最新のテクノロジーの試行・導入、社内人材の確保や外部採用による必要な専門性の確保に取り組んでいます。
また、非常に重要なのが『真因の分析』です。従来の内部監査では、個別の部門や機能などの論点に対して指摘や提言を行うことが主でしたが、それだけでは十分ではありません。実際に監査を進めていく中で、複数の部門や時期をまたいで共通する課題が見えてくることがあります。これを『共通真因』として分析することで、まだ顕在化していない潜在的なリスクや問題を特定し、未然に防ぐことができます。この共通真因の分析に力を入れることで、フォワードルッキングな内部監査を実現し、企業全体の健全な成長を支えることができると考えています。
さらに、社内の視点だけではなく、外部の視点を取り入れることが欠かせません。私どもは、今年の4月に「グループ監査委員会」を立ち上げました。この委員会には社外の有識者にも委員として参加していただき、外部の目線から私たちの内部統制システムの有効性を厳しく評価し、不適切な部分があれば指摘していただく体制を整えているところです。
―本日は、本当に貴重なお話をありがとうございました。
滝澤様 Front-IAと様々な連携ができていることに感謝しています。御社のサポートがなければ、現在の体制にはなっていなかったと思いますし、日頃のアドバイザリーは部員にも良い影響を与えており、プラクティスも含めて参考にさせていただいています。御社の存在は非常に重要ですので、今後ともよろしくお願いいたします。
ーこちらこそ、いつもありがとうございます。私どもとしても皆様との対話を通じていつも新しい気づきを得ています。これからもよろしくお願いいたします。
インタビュー時期:2024年8月
文中の会社名・役職等は取材当時のものです。